ギリシャのアテネ国際空港に着いたのは、昼間だったと思う。
空港から市街地までは、電車で向かった。
電車は最初、地上を走っていた。黄土色の大地、それを埋め尽くすオリーブの樹々。空気も大地も、ものすごく乾いているように見える。
途中から電車は地下に潜った。
自分の中のイメージよりもはるかにモダンな地下鉄の駅に少し驚いた。

駅の改札を出ると、そこではチャリティーマーケットが開催されていた。お菓子や雑貨を売る修道女たち、オリーブ関連の商品を扱う店の店主、その他食品や家具、敷物など色々な物を扱う人たちで賑わっていた。

ある一角に年老いた修道女が切り盛りする出店があった。
そこにはとても繊細な模様の入った薄い銀のトレーが売られていた。
私はそれを買った。
その修道女にギリシャ語で「ありがとう」は何と言うのか聞いた。
「Ευχάριστος(エフハリスト)」と言った。
この旅で唯一覚えたギリシャ語であった。
他にもオリーブの実や珍しい食品などを買い、駅の外に出た。

ホテルに着くと、フロントマンから観光エリアと、行かないほうがいいエリアについてもアドバイスをもらった。
フランスやドイツなど、ヨーロッパ各地で大きなトピックになっている移民問題であるが、同じくギリシャもその影響を受けている。2010年に起きた経済破綻後、街の治安は悪くなる一方で、移民たちによる犯罪も多かったようだ。
現地の人の話はよく聞いておこうと思う。そのエリアには行かないことにした。

幸い、パルテノン神殿やディオニソス劇場といった観光名所は危険なエリアに入っていなかったので、赴くままに街を歩いてみることにした。
ホテルは少し海抜の高いところにあったので、眼下には砂色の建物がみっしりと詰まった街並みが見え、その奥にうっすらとエーゲ海が見えた。

まず、アテナイのアクロポリスに向かった。岩だらけの丘をひたすら歩き、頂上にあるアクロポリスを目指す。長く続く傾斜が堪えた。時々原付バイクに乗った人とすれ違う。少し羨ましくなる。
そうしているうちに、若いギリシャ人の男の子二人に声をかけられた。
「アクロポリスまで行くのか」
「そうだ」
「それじゃあ一緒に行こう」
なぜか三人でアクロポリス目指すことになった。
でも、なんとなく一人で歩くよりも、頑張ろうという気になった。

頂上に着くと、そこは私が泊まっていたホテルよりもさらに海抜が高く、アテネの街全体を見渡すことができた。何千年も前からこの景色があったと思うと、なんだか不思議な気分になってきた。
アクロポリスも教科書で見た通りだった。でかい。
教科書の写真よりもはるかにでかく感じる。
工事中だったこともあり、残念ながら足場が組まれていたり、防塵用の布がかけられていたりして全体像をそのままみることはできなかったが、それでもでかかった。
そして猫にとっては、足場があろうとフェンスがあろうと関係ないようで、悠々と神殿の中で昼寝をしていた。呑気だ。王様も何千年か後にまさか猫の昼寝スポットになるとは思わなかったんじゃないかな?(思ってたかもしれないけど。)

アクロポリスを背に、丘の上の岩の一つに腰掛けた三人は、アテネの街を見下ろしながら簡単な英語で会話をした。どうやら同い年くらいのようだった。

そのうちの一人が「何か食べに行かないか」と言った。
「いいよ」と言って、三人で丘を降りた。

丘を降りると、提案しなかった方の男の子は帰ると言って帰ってしまった。
二人だけになった。

提案した男の子が連れて行ってくれたのは、街中にあるテラス席と店内席の境目がない開放的なお店だった。内装も洒落ていた。観光客や地元客で賑わっていて、みんな開放的な様子。

彼は言った。
「ギリシャでは「σουβλάκι(シュブラキあるいはスブラキ)という食べ物が有名で、そう言った串焼きの肉や、もしくは串刺しにした肉を削ぎ落とした物をピタに挟んで食べたりするんだ。それを食べてみるかい?」
私は「うん」と言って、オーダーしたものが届くのを待った。

出てきたのは、肉や野菜、フライドポテトを、ポケットのないピタパンのようなパンで巻いたケバブのような料理だった。
一口食べてみると、肉に染み込んだハーブの香りと肉汁が鼻と舌を刺激した。脂が乗っている肉に合わせてあったのは、ヨーグルトベースのソースで、肉の旨味とソースのクリーミーさがとてもよく合っていた。そしてフライドポテトのジャンクさが、ケバブとはまた違ったインパクトを残す。
こんな美味しいものが手軽に食べれるのか!この国は。すごい。妙に感動した。

食べ終わったあと、彼は私の泊まっているホテルまでついて来たけれど、丁寧にお礼を言って、そこで帰ってもらった。
積極的だなと思ったけれど(それがギリシャの文化なのかもしれない。わからない)、一緒に丘を登ってくれたこと、そして美味しい料理に出会えたことには感謝している。

しかし、後になってから、この料理の名前を聞くのを忘れてしまったことに気が付いた。

帰国してから、色々とインターネットで調べてみると、それが「γύρος – πίτα(ギロピタ、あるいはジャイロ)」と呼ばれるものであることがわかった。また、あの濃厚なヨーグルトベースのソースは「τζατζίκι(ジャジキ)」というらしい。
そこから思い立って、自分で作ってみることにした。

思い出の味の一つです。

参考サイト
ギロピタのレシピ(英語です)
アクロポリス

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