「ジーティエンは何が食べたい?」
と、リウビーは言った。
私は何が食べたいのかよく分からなかった。だって、目の前のメニューはほとんどが真っ赤に染まった食べ物だったからだ。

ここは中国の陝西省にある首都、西安。かつては中国古代王朝の首都長安として栄えた街だ。兵馬俑で有名なあの街だ。中国大陸のほぼ真ん中に位置し、乾いた風が吹く。乾燥地帯独特の黄色い風は、あっという間に服を薄汚れた色に染める。

リウビーは真っ黒でまっすぐで長い髪の女の子で、この滞在で一番私の面倒を見てくれた女の子だった。彼女はどこへ行くにも私に付いてきてくれたし、どこかへ連れて行ってくれたりもした。

多分彼女と昼食をとっていた時だったと思う。なんとか身振り手振りと漢字で(この時初めて漢字の偉大さを実感した、喋れなくても伝わるなんて)「辛いものが食べられない」と伝えたところ、「じゃあこれは?」と勧めてくれた。

西紅柿炒鶏蛋麺

西の紅い柿を炒めて鶏…と麺????

とりあえずは辛くなさそうだったから、それを注文することにした。

西安には現在も城壁が残っており、その中には様々な文化が混在している。
仏教、チベット仏教、イスラム教、と言った宗教的な多様性もある。
また、それだけ多くの人が行き交ってきた街ということもあり、料理の幅もかなり広く、独特だ。
四川の影響を受けた西安料理、シルクロードからやって来た民達の料理、馍(モー)と呼ばれるパンを使った料理、羊料理、数多の餃子の類、と言った感じだ。

「お待ちどうさま」と言って、とても可愛いお姉さんが運んできてくれたのは、卵とトマトの炒めたものが入っているスープに麺が入った、ラーメンのようなものだった。上には、握りこぶし1つ分くらいの刻みパクチーが乗せられていた。
私はそれまでパクチーを食べたこともなかったけど。なんとなくそれがパクチーなんだな、と感じた。
リウビーは、なんだかよく分からない真っ赤なものを食べていた。

麺は平たく、削られているような麺で、のちにそれが刀削麺であることを知った。スープは鶏ベース。西の紅い柿はトマトのことだったのだ!トマトの酸味とスープがとてもよく合っていた。また、卵の炒め具合も絶妙で、半熟でもポロポロでもなく、ちょうどいい柔らかさの、ちょうどいい大きさで炒められていた。パクチーはその爆弾的な量に最初は驚いたけど、混ぜてみると卵とトマトの優しい味の中に、新鮮なインパクトを残した。
完食した。
一瞬でこの麺が好きになった。

それからというもの、リウビーがいない間も私はその食堂に通って、このラーメンを食べた。8月が終わり、9月がやって来て、夏とは違ったひんやりとした雨が降る日も、それを食べると身体の芯からあったまった。
そして、食堂のお姉さんはいつも可愛かった。

帰国してから、味を思い出しながら作ってはみるけれど、完全にあの味にはならない。何が入っていたんだろう。
リウビーとその友達達も元気かな、と時々思い出してみる。

Drawing by Chiemi Yoshida
Photo by Manoj kumar kasirajan on Unsplash

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